経済回復基調を受けたオフィス需給の見通し(東京都区部)

 

                                              計画研究所コスモプラン代表

                                                       東北芸術工科大学教授

水鳥川和夫

 

 2003年度日本経済の成長率は2.5%となり、2004年も前半期では5%成長を記録し後半期がゼロ成長となったとしても2%台の成長は確実となっている。また、各機関の発表によれば、2004年12月には、東京都心5区の空率率は、流通在庫水準といわれる5%を切り、賃料も上昇傾向に転じている。

このまま景気が回復に向かうのかどうか余談を許さないが、ゼロ成長がこのまま長期に続くという悲観論は後退してきたと思われる。

これに応じて各経済主体の行動様式も変化したと思われるため、新たに関数式を計測することにより、今後のオフィス需給について予測を行うとともに、団塊世代のリタイアに伴う生産年齢人口の減少が及ぼす影響(いわゆる2007年問題)について検討した。

 

T オフィス需給見通し(東京区部)

1.通常ケース

 2%程度の経済成長が続く場合には、空室率は今後とも低下傾向を示し、2010年頃には空室率は2%水準にまで低下する。これに伴い賃料も上昇傾向が続き、空室率2%台では月坪6万円にまで近づいていく。このような状況は、オフィスの建設需要をも刺激し、オフィス着工量はバブル経済時期の500万平方メートルに近い400万平方メートルに達する。これは、都心商業地の価格を上昇させるであろう。

 

2.低成長ケース

1%程度の経済成長率に低下すると、2011年に向けて空室率は上昇し、オフィス市況は悪化するであろう。その後穏やかに空室率の改善がみられるものの空室率が5%水準を下回るのは2010年代後半になるであろう。需給の悪化を受けて賃料はむしろ低下傾向となり、2011年までに2004年賃料水準に対して14%の減少となる。その後賃料は上昇に転じていく。

オフィス着工量も同様な傾向をたどり、100万平方メートル程度の停滞が続く。

 

3.高成長ケース

3%程度の高成長率が続くとオフィスワーカー数が増加し、オフィス需給は逼迫状態となる。2008年には計算上の空室率はマイナスとなる。実際にはマイナスとなることはないため、1人当たりの床面積が縮小し、東京都心外への分散が始まる。2013年まで需給ギャップは拡大していき、マイナス5%程度の潜在需要ギャップを生み出す。

このような状況下では賃料も鰻登りに上昇し、バブル状態となるであろう。新規着工もバブル経済期のピークを越え、600万平方メートルに達するものの、なお旺盛なオフィス需要に対応できず、異常な事態が惹起されると予想される。

これは、日本経済の低成長に適応すべくオフィス供給能力が低下した結果、3%の持続的な経済成長には耐えられない体質となったということを意味する。具体的にはオフィスオーナーが、オフィスの逼迫を目の前にしても、過去の失敗に懲りてなかなかオフィス開発に着手しないという状況に対応する。

 

図1 東京区部オフィス空室率の予測

 

 

 

図2 東京区部オフィス賃貸料の予測

図3 東京区部オフィス着工量の予測

 

 


U 2007年問題とオフィス需給

 今後団塊世代が定年を迎えるために生産年齢人口が減少してオフィスワーカー数が減少し、需給ギャップが拡大するという問題が予想されている。この問題は、2007年に団塊世代の先頭が60歳を迎えることから2007年問題と言われたり、2010年問題と言われたりもしている。

 実際の生産年齢人口は、図4にみるように1995年をピークとして既に減少傾向にあり、既にデモグラフィック(人口学的な)圧力がかかっている状態にある。

 

図4 生産年齢人口(15〜64歳)の推移と予測

資料)総務省統計局『日本の統計2004』による。

注)2005年以降は国立社会保障・人口問題研究所による中位推計。

 

 一方、オフィスワーカー数の動向をみると1980〜1990年には年率1.2%で伸びていたものが、1992〜2004年では増加率はゼロで横ばいとなっている。

 

 

図5 オフィスワーカー数の推移

資料)総務庁統計局「労働力調査年報」

 

 オフィスワーカー数の増加率は経済成長率とよい対応関係にあり、図6にみるように経済成長率とほぼ対応して、オフィスワーカー数も増減している。1995年以降生産年齢人口の減少圧力を受けながらも、経済成長率との関係は最近年次も保たれており、その影響は技能職や運輸関係など他の職種に影響を与えているが、オフィスワーカーにはあまり影響を与えていないと考えられる。

 

図6 オフィスワーカー増加率と経済成長率

資料)総務庁統計局『日本統計月報』

 

 オフィスワーカーは、労働力調査上の定義により、管理的職業、事務従事者、専門的技術的職業の3職種の合計である。それぞれの動向をみると管理的職業は1992年以降減少傾向にあり、事務従事者は2000年以降顕著な減少となっているのに対して、専門的技術的職業は一貫して上昇しているのがみられる。すなわち、オフィスワーカーの構成が変わっているということ、そしてソフトウエア技術者や研究開発者など頭脳労働者の増加が経済成長と連動しているということを意味しているのである。

 

図7 オフィスワーカーの構成の推移

 

資料)総務庁統計局「労働力調査年報」

 

 図8は、世界の主な国について1人当たりのGDPと頭脳労働率(=オフィスワーカーの定義と等しくとってある)との関係をみたものである。

 世界の主要国については、頭脳労働率と1人当たりのGDPとは上に凸の対応関係にあり、このことは頭脳労働率を高めないと高所得を維持できないことを意味している。しかしながら、日本だけが高所得国のなかで突出して頭脳労働率が低く、これまで世界にぬきんでた製造業に依存して高所得を維持してきたことが分かる。

 しかし、製造業が中国などの挑戦を受けて全般に行き詰まるなかで、日本が高所得を維持していくためには頭脳労働率(=オフィスワーカー率)を高めていかなければならいことは図8からも明らかであるとともに、経済成長率とオフィスワーカーとの関連が強いということの要因でもある。

 

図8 世界の1人当たりGDPと頭脳労働率の関係

資料)総務省統計局『世界の統計2003』より

 

 以上から、日本が所定の経済成長率を達成していく上では、オフィスワーカー(具体的にはソフトウエアや研究開発者、また金融専門家などの専門的職業者)を増加させていかなければならず、逆に経済成長に伴ってこれらの職業が増加していくことも必然なのである。したがって、日本が所定の経済成長率を達成していく限りにおいて生産年齢人口の減少はオフィスワーカーにあまり影響せず、むしろその影響は頭脳労働者以外の職において現れるものと考えられる。